書籍『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』 [プログラマー現役続行]
「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書 439)
- 作者: 酒井穣
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/01/16
- メディア: 新書
人材の育成に関して、様々な側面から説明されています。しかし、ある程度、人材育成に関心を持って活動してきていないとピンとこない部分もあるかと思います。しかし、私自身は、非常に参考になることが多く書かれていました。その中から、「熟達の5段階モデル」を紹介します。
ビジネスパーソンとして、ある分野における世界的レベルのプレーヤーになるには、最低限10年の経験が必要だと言われます。教育学の世界では、とくにこれを「熟達の10年ルール」と言ったりもします。拙著『プログラマー現役続行』でも、私自身は次のように述べています。
言うまでもなく、この10年というのはスケール上の目安の話であって、必ず10年必要だとか10年経てば誰でも世界レベルになれるという話ではありません。当然、これは、仕事の内容や個人の能力によって変わってくる話です。
10年も必要なのかと絶望されてしまわないように付け加えておきますが、とりあえず「一人前」として一通り仕事がこなせるようになるだけなら、先のバックワード・チェイニングなどの手法によって、3年ぐらいでどうにかなると思います。
『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(p.170)
一人前になるには10年「熟達の10年ルール」という言葉は、始めて聞きましたが、基本的に同じことを述べています。
ソフトウェア開発は創造活動であり、創造力を高めるには、「より良くできないか」という問題意識を常に持ちながら、多くの経験を積んでいくことです。
リチャード・ガブリエルは、「ソフトウェアを書くことは芸術であり、本当にうまくなるには10年を要する」とも述べています。
これは、「10年間ソフトウェアを開発した人が一人前である」という意味ではありません。実際の開発現場では、単に10年間を過ごしただけであり、一人前といえる経験・知識にはほど遠い人も多いです。
『プログラマー現役続行』(p.25)
続けて「熟達の5段階モデル」が紹介されています。
こうした熟達のステップについては、知っておくと良い熟達の5段階モデルがあります。この5段階を、名著『経験からの学習』(松尾睦著)の記述をもとにしつつまとめると、以下のようになります。熟達者が直感で判断したことを、なぜと聞かれて説明することは難しいのではないでしょうか。それが説明できるようになると、完璧な熟達者かもしれません。
初心者 原則を理解しつすも、状況による原則の使い分けができない
見習い 状況に応じた対応ができるものの、シニアの指導が必要
一人前 ルーティンであればすべて一人でこなせる
中堅所 微妙な状況の違いや、例外への対処などもできる
熟達者 状況を的確に判断し、直感でも正しい判断ができる
個人的にとくに注意すべきだと思うのは、まだ熟達の域には達していないにかかわらず、何事も直感に頼りたがる傾向のある人材です。そうした人材は、確かに他者よりも直感に恵まれていたりして、これまで「直感が鋭いね」と周囲から褒められてきたりもしているので少し厄介です。
熟達者が直感でも正しい判断が下せるのは、積み上げてきたロジックが、いつのまにか無意識にまで落とし込まれているからです。いったん、形式知化されたものが再び暗黙知の世界に入り込んでいくことで、暗黙知の世界に常人からは想像もつかない変化が起こっているのでしょう。
直感は重要です。ただ、本当の意味で直感が威力を発揮するのは、ある程度シニアになってからの話であって、それまではむしろ直感に頼った判断を忌み嫌うぐらいでちょうど良いと思うのです。
『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(p.170)
2010-01-16 23:06
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はじめまして。ご紹介いただいた『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』の著者です。拙著のお買い上げ、ありがとうございました。また、大変嬉しい書評を頂戴し、ありがとうございます!
熟達者であっても、自らの直感に説明をつけられるか否かによってその熟達度合いが異なるという視点は、非常に鋭いと感じました。こうした言語化の力は、部下の育成能力などとも関連がありそうです。
柴田さまのご著書も拝読させていただこうと思います。今後とも、よろしくお願いします。
by 酒井穣 (2010-01-17 10:35)
酒井様、
出版おめでとうございます。昨日、届いたので一気に読んで、ブログに書きました。他にも、色々と書きたい内容が多数書かれていましたので、何度か紹介させてもらいます。
今度とも、よろしくお願いします。
by Yoshiki (2010-01-17 17:29)